モータ電流監視を利用したウェハー張り付き検知機能

リフター機構と異常検知

ウェハー搬送では、テーブルから持ち上げる一瞬に「張り付き」が起こることがあります。
追加のセンサを付けずに、モータ電流の変化だけでこの異常を見つけられたら——。本コラムでは、リフター機構の動きと、モータ電流監視による張り付き検知のしくみを、図とともに解説します。

構 造

リフターの構造(テーブル固定・3ピン昇降)

テーブルは固定されており、3本のリフターピンだけが同期して上下します。各ピンはDDモーターと送りねじによる昇降機構で、テーブルを突き抜けて上昇し、ウェハーを持ち上げます。

リフター機構:固定テーブルを3本のリフターピンが貫通して上昇する構造(左:実機写真、右:断面図)
図1:リフター機構の構造(左:外観/右:断面図)。固定されたテーブルを3本のリフターピンが貫通して上昇し、ウェハーを持ち上げる。各ピンはDDモーターと送りねじで駆動され、そのモータ電流が監視対象となる。
動 作

正常時と異常時で、何が変わるのか

テーブルは固定されたまま、3本のピンが伸びてテーブルを突き抜け、ウェハーを持ち上げます。正常時は①下降位置→②上昇中→③上昇完了とウェハーが持ち上がりますが、異常時はウェハーが離れず、ピンが押し続けて過大な負荷がかかります。

リフターピンの動作。テーブルは固定で、ウェハーの高さとピンの長さだけが変化する。上段=正常時(①下降位置→②上昇中→③上昇完了でウェハーが持ち上がる)、下段=異常時(①張り付き/②過大な負荷)。
図2:リフターピンの動作。テーブルの高さは固定で、ウェハーの高さとピンの長さだけが変化する。上段=正常時の流れ(①下降位置→②上昇中→③上昇完了でウェハーが持ち上がる)、下段=異常時の状態(張り付き・過大な負荷でピンに余分な力がかかる)。

この「持ち上がらないのにピンが押し続ける」状態こそが異常のサインです。ピンに余分な力がかかるぶん、駆動するモータの電流が増えます。

原 理

なぜ「モータ電流」でわかるのか

張り付きが起きると、ピンはウェハーを押し続け、モータには余分な負荷がかかります。負荷が増えればモータ電流も増える——この関係を利用して、追加センサなしで異常を捉えます。各ピンのモータ電流をリアルタイムで監視します。

0.00.30.50.81.0電流 [A]時間 → 実測値(ノイズ含む) EWMA平滑化後 閾値 (例 0.5A) 正常時 約0.3A 張り付き時 約0.8A
図3:モータ電流の変化(例)。実測値(細線)はノイズで揺れるが、EWMA平滑化後(太線)が閾値を超えたときに張り付きと判定する。正常時は約0.3Aで安定し、張り付き発生時は約0.8Aまで上昇する。
ノイズ除去

EWMA による電流のノイズ除去

ただし、モータ電流には回転中の細かな変動(スパイクノイズ)が常に乗っています。生の電流値をそのまま閾値と比べると、一瞬のノイズで誤検知してしまいます。そこで採用しているのが 指数移動平均(EWMA:Exponentially Weighted Moving Average) です。

EWMAn = α In + (1 − α) EWMAn−1
最新値の反映
過去の履歴の保持

図4a:第一項が今回の電流変化を、第二項が過去の平滑化値(トレンド)を受け持つ。
記号 意味
EWMAn 今回得られる平滑化後の電流値。異常判定の対象となる出力値。
In 今回リアルタイムで取得した生のモータ電流値(測定値)。
EWMAn−1 前回計算された平滑化後の値。過去のトレンドを保持する。
α 平滑化係数。0〜1 の値をとり、応答性とノイズ耐性を決める。

最新値と過去の履歴を一定の比率で混ぜ続けることで、瞬間的なスパイクを抑えつつ、張り付きによる持続的な負荷増加だけを安定して捉えられます。

係数 α による特性の変化

α を大きく(1に近い)

最新の測定値 In の影響が強い。応答は速いが、ノイズも拾いやすい。

α を小さく(0に近い)

過去の平均の影響が強い。波形は滑らかだが、急な変化への追従はわずかに遅れる。

0.00.30.50.81.0電流 [A]時間 → 生波形 In EWMA (α=0.3) EWMA (α=0.1)
図4b:生波形とEWMA(係数αの違い)。αが小さいほど滑らかになり、スパイクの影響を受けにくい一方、立ち上がりへの追従はわずかに遅れる。
処理フロー

張り付き検知の処理フロー

電流取得リアルタイム
EWMA 平滑化ノイズ除去
閾値判定設定値を超過?
YES
張り付き検知異常負荷
装置停止アラーム通知

EWMAで平滑化した値が設定した閾値を超えたときだけ、張り付きと判定して全軸を安全に停止します。一瞬のノイズでは止まらないため、誤停止を防ぎながら、真の異常だけを確実に捉えられます。

まとめ

検知できる異常と、本機能のメリット

検知できる異常の例

  • ウェハーの張り付き
  • ウェハーの噛み込み
  • リフターピンの機械的引っ掛かり
  • 異常摩擦の発生
  • ピンの固着や動作不良 など

本機能のメリット

  • 追加センサ不要でシンプルな構成
  • ウェハー破損リスクを低減
  • 搬送異常を早期に検知
  • 装置の安全性・信頼性が向上

CONCLUSION

まとめ

テーブルは固定され、3本のリフターピンがテーブルを突き抜けて上昇し、ウェハーを持ち上げます。ウェハーが張り付いていると持ち上がらず、ピンに過大な負荷がかかり、モータ電流が上昇します。

その電流をEWMAで平滑化して監視することで、ノイズによる誤停止を避けつつ、ウェハーの張り付きや搬送異常を確実に検知し、安全で信頼性の高い搬送を実現します。